Pretty Face
「由奈ちゃんはほんとによく働く子だったわー」
吉田君のお母さんが言う。
「そういえばあなたの事、よく話してくれたっけ。かわいい妹がいるって、そりゃ嬉しそうにね。」
「わたしのこと、ですか?」
理奈はきょとんとした顔で、聞き返した。
「…なんだか意外… わたし お姉ちゃんにうとまれてると思ってたし…」
「どーして?冷たくでもされてるの?」
理奈はうつむいていた顔を起こして、そして笑顔で、こう答えた。
「ううん… 帰ってきてくれてからのお姉ちゃんは とっても優しいんです。
―でもそれは、お姉ちゃんの記憶があいまいになってるからなんだって思って…。だってもし、わたしさえいなかったら お姉ちゃん、
家出なんてしなくても 好きな道に進めていたかもしれないし…
2年前のあの日、由奈と両親の言い争いを、理奈は隣室で聞いてしまった。
【何よ、理奈は好きな学校に行けて私はダメなの? わかったわよ、私より理奈がかわいいんでしょ!】
【私より理奈が…】
その日から、理奈は部屋で泣いてばかりいる日が続いた。お姉ちゃんが家出したのは私のせいなんだ、と自分を責めては泣いていた…
―家を出たときのお姉ちゃんは、たぶん わたしの事じゃまに感じてて もし、お姉ちゃんがあのころの記憶をとり戻したら、きっとまた…
いなくなっちゃう気がして… わたし ずっと怖くって…」
理奈は笑顔でこう話したが、その目には、うっすらと涙が光っていた。
吉田くんのお母さんは、理奈の不安を包み込むような優しい口調でこう言った。
「それは、ただの言葉のアヤだと思うけどねえ。いつだったか、由奈ちゃんに聞いたのよ、将来どんなお客さんをカットしたい?って。
すると、由奈ちゃん、にこにこして話してくれたもんよ。いつか、あなたを世界一かわいくカットするんだ、って。
‥‥‥‥‥‥
《私ね、もう最初にカットする人は決めてるんだ!妹の理奈が、私の初めてのお客さんなの》
‥‥‥‥‥‥
ずっとずっと前から約束してるんだ、ってね。」
―お姉ちゃん…あんなささいな約束…ちゃんと覚えててくれて…
理奈は、嬉しくなって泣いてしまった。
吉田君のお母さんは、そんな理奈の肩をポンポンと優しくたたいた。
「だから私は、由奈ちゃんがまたいなくなるなんて、ないと思うわ。」
理奈は、涙が止まらなくなった。お姉ちゃんが、こんなにも私を思っていてくれたことが、嬉しくて、嬉しくて…。
涙が止まらなかった。
‥‥‥‥‥‥
プリティフェイス
〜Preface(まえがき)〜
〜序章 無理が通って道理も通す〜
〜第二章 小樽大捜査線〜
〜終章 政の思い、理奈の思い〜